
「スーツケースが踊り出す!」斬新なパフォーマンスで世界の舞台へ ~新潟大学リズム体操部のストーリー~
DATE賑やかなポルトガルの街リスボンで開催された体操の国際大会「World Gym for Life Challenge」。33カ国から約3700名の選手が参加する中、一風変わった演技が観客の心を捉えました。
新潟大学リズム体操部が披露したのは、なんとスーツケースを使用した革新的なパフォーマンス。
それは、単なる体操の枠を超え、旅立ち、絆、そして、社会的メッセージを込めた、印象的なストーリーでした。今回は、スーツケースと共に世界の舞台に立った、新潟大学リズム体操部顧問の檜皮先生と学生さんたちにお話を伺いました。

順位を決めない体操の世界 World Gym for Life Challenge
今回出場された大会について教えてください。
檜皮:
私たち新潟大学リズム体操部が出場したのは、ポルトガルのリスボンで開催された「第5回 World Gym for Life Challenge」です。この大会は、国際体操連盟(FIG)が4年に一度開催する国際的な体操の祭典で、今回は33カ国が参加しました。私たちが出場したのは、「Gymnastics & Dance Small Group」部門。この部門には64チームがエントリーし、熱い演技が繰り広げられました。日本からは、他に筑波大学のチームも出場しました。
シルバーアワードを受賞されたとのことですが、これはどのような評価基準に基づいているのでしょうか?
檜皮:
採点は、4名のエバリュエーターによって4つの観点から行われます。一つ目は「エンターテイメント性」で、「また見たい・人に伝えたい」と思わせる魅力があるか。二つ目は「革新性・独創性・多様性」で、これまでにない、より進んだ作品であるかどうか。三つ目は「安全確保」で、怪我につながる危険な方法で行われていないか。そして四つ目は「総合的な印象」。これらの観点が評価の基準になり、私たちはシルバーアワードを獲得しました。
しかし、この大会がユニークなのは、オリンピックなど競技としての体操とは異なり、「順位を決めない体操」というコンセプトを持っている点なんです。メダルの色で勝ち負けを表すのではなく、演技の質に応じてゴールド、シルバー、ブロンズのアワードが授与されます。だから、アワードに関係なく、もらえる参加賞のメダルは全員同じものなんです。
競わない体操、面白い考え方ですね!みんな違っていて良い、それぞれの持ち味が評価されるということですね。
檜皮:
はい。大会組織の代表者であるロジェリオさんも、「みんなそれぞれに価値があり、体操はどれも素晴らしいものだからメダルの色は変えません」と説明されていました。「多様な体操を認め合い、平和に活動すること」を重んじる姿勢は、まさに新潟大学リズム体操部の活動理念とも深く共鳴するものなんです。

「旅人」×「カントリーロード」 スーツケース演技の誕生秘話
今回の演技コンセプトとスーツケースの活用について詳しく教えていただけますか?
檜皮:
演技を作る上で大切にしたのは、メッセージ性です。今回は「旅人」というコンセプトを軸に演技を構成しました。これは、顧問である私が部員たちが4年で卒業し、次の場所へ向かう姿を見て、まるで旅人のようだと感じたことに着想を得ています。その上で、旅の象徴としてのスーツケースを小道具にすることを思いつきました。卒業しても、このリズム体操部が彼らにとっていつでも帰ってこられる「家」のような場所になって欲しい。別れの寂しさも感じつつ、いつかまた会えるという希望を込めて、楽曲には「カントリーロード」を選びました。
とても素敵なコンセプトですね。学生は、入っては出ていく旅人のような存在。でも、いつでも戻ってきて良いんだよという先生の深い愛情が伝わります。
社会課題への挑戦
今回、なぜリサイクル品のスーツケースを使おうと思ったのでしょうか?
檜皮:
「旅人」というテーマに加え、「SDGs(持続可能な開発目標)」への貢献も意識しました。持続可能な社会の実現が求められる現代において、体操部として社会課題にもチャレンジする必要があると考えたんです。新しい綺麗な道具を買うのも素晴らしいことかもしれないけれど、それもいつかゴミになってしまう。だから、私たちは再利用できるもので体操をすることにこだわろうと思いました。
それで、レジェンドウォーカーのスーツケースを見つけて下さったのですね。
檜皮:
そうなんです。リサイクルスーツケースを探し始め、インターネットで検索したところ、T&Sさんがスーツケースのリサイクルをされていることを発見しました。一か八かで連絡を取らせて頂いたところ、リサイクル品のスーツケースを提供頂くことに快諾くださり、本当に感謝しています。
これらのスーツケースは、お客様が色やサイズ違いで返品し、再販できなくなった商品なんです。一度でも開けたり展示したりして傷がつくと商品として売れないため、演技で活用する機会をいただき、もう一度命が吹きこまれた気がして私たちにとっても大変嬉しいことでした。
スーツケース演技の舞台裏
体操でスーツケースを使うなんてすごく斬新だと思いますが、演技の動きはどのように考案されたのですか?
檜皮:
スーツケースを小道具にするのは簡単なことではありませんでした。ボールやリボンとは異なり、車輪がついており独特の形をしています。まずは、駅などで、普段人がスーツケースをどう使っているか、どう持っているかを観察することからアイデアを得ました。そこから、様々な動きを考案していったんです。
私たちにとっても、体操の中でスーツケースってこんな動きができるんだとか、こんな風に見えるんだと知って新鮮でした。演技の構成も物語性があって素敵でしたね。
檜皮:
ありがとうございます。構成は、一人の孤独な旅から始まり、次第に人数が増え、最後は皆で協力して一つの円を作るという、絆の形成を描くものにしました。積み重ねたり、上を跳び越えたり、そして皆で輪になって呼吸を合わせて転がしたり。これらの動きは、新潟大学リズム体操部のコンセプトである「やって楽しい・見て楽しい」を体現するものでした。また、作る過程も楽しむことを大切にして、学生たちが笑顔で取り組めるような工夫を凝らしました。時にはスーツケースから転げ落ちるような「失敗も楽しむ」姿勢で、学生たちは新しい表現に挑戦できたのかなと思っています。
スーツケースを使った演技に対して反響はありましたか?
檜皮:
最終日には、ゴールドアワードを獲得したチームが集まる「ガーラ」がありました。それを見ていると、多彩なアクロバットや組体操など、派手な演技が多かったのですが、私たちは、あくまで明日にでも皆ができそうなシンプルな体操。けれど、スーツケースを使った斬新なアイデアが沢山の方に楽しんでいただけたようで、「日本のスーツケースのチーム」として海外の方々にも強く印象に残ったようです。リーダー会議では、各国のチームリーダーをはじめとする関係者からスーツケースの演技が高く評価され、「みんながみんなアクロバットをするのではなく、ああいう体操があるといいよね」というコメントもいただき、嬉しかったですね。また、卒業生のおばあさまが、「スーツケースが踊っているみたいだった!」と喜んでくださったというエピソードもありました。
実際に演技をされた学生の皆さんの感想はいかがでしたか?
学生(加藤):
背中で寝転がって足を動かす動きなど、高さがあるスーツケースの上で腹筋を使うのが難しかったです。でも、音楽に乗せて転がしたり積み上げたりする斬新な動きができたときは、スゴイなって思いました。
学生(寺島):
難しかったところは、皆で輪になり息を合わせて転がすところです。合わないとぐちゃっとなってしまう。でも演技はとても楽しくて、「辛い」よりも「楽しい」が勝った作品だと感じています。今回をきっかけに、他にも日常で使っている道具を取り入れて作ってみたいなと思いました。
新潟大学リズム体操部の理念
檜皮先生が部活動で掲げている「やって楽しい・見て楽しい」というコンセプトについてもう少し詳しく教えてください。
檜皮:
私自身は、大学に入学してからこの体操をずっとやってきて、楽しむというよりも、「使命感」や「義務感」が勝つ時がありました。でも、新潟大学リズム体操部での体操は、体操そのものを、まず自分たちが楽しむことを大切にしています。その上で、ただ自分たちだけが楽しいのはなく、見ている人にも「やってみたいな」「あの演技は楽しいね」と思ってもらえるような、共感を生む体操を目指しています。
そして、やはり大学生として部活動に所属するからには、楽しむだけではなく人間性を育むことも大切にしています。具体的には、「苦労は自分から買って出る」といった自立心を養ったり、「まずは大学や地域にしっかり応援されるような部活であるべき」ということを学生たちに伝えています。主体性を大切にしつつも、期限を守る、掃除をする、互いに相談するといった社会に出ても大切なことを学んで欲しいと思っています。
学生さんたちはどのようなきっかけで入部するのでしょうか?
檜皮:
学生が学生を呼ぶことが大事なので、教員からの勧誘はほとんどしません。新潟大学リズム体操部には多様な学部の学生が所属しており、勉強のために大学に入学し、その上で部活動として体操を選んでいます。体操競技経験者は体操競技部に行くので、リズム体操部に来る学生は「新しいものにチャレンジしたい」という思いで入部する子が多いと感じています。
競わない体操(Gymnastics for All)という概念を今回はじめて知りましたが、最後に、学生の皆さんにとってリズム体操とはどのようなものでしょうか?
学生(加藤):
今までソフトテニスのような「戦う競技」をしてきましたが、リズム体操は「みんな違ってみんないい」という感じがします。今回の大会でもアクロバットをする団体もあれば、おじいちゃんたちの団体もいて、それぞれの良さがあると感じました。
学生(寺島):
高校では少林寺拳法で個人技を極めることが多かったのですが、リズム体操は皆と呼吸を合わせ一緒に動くことで、繋がりを感じて楽しいです。一生残る思い出になるだけでなく、価値観も広がる貴重な経験だと感じています。
おわりに
「競わない体操」という新しい分野で活躍する新潟大学リズム体操部。今回は、リサイクルスーツケースと共に踊るという、かつてない斬新な演技が世界の舞台で高く評価されました。
難度の高い体操ではなく、誰もが心躍り、思わずやってみたくなるような親しみやすさ。それは、まさに「やって楽しい・見て楽しい」という部のコンセプトを体現しているのではないでしょうか。
更に多様なステップやスーツケースの使い方を工夫し、2年後の世界大会でも披露したいという檜皮コーチ。レジェンドウォーカーのスーツケースは、こういった演技にも耐えられる丈夫なキャスターと品質が自慢です。ぜひ引き続き、笑顔溢れるパフォーマンスのサポートをさせていただければと思います。
インタビュー:斉真希
ライター:藤井麻未